★★注目ニュース★★ 日立システムズ・神奈川県・メドミライ・東京大学、生成AIを活用したヘルスケア分析基盤を構築
『HealthTechWatch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
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“日立システムズ・神奈川県・メドミライ・東京大学、生成AIを活用したヘルスケア分析基盤を構築”
保健指導業務の効率化とデータをもとにしたひとりひとりに合った保健指導を実現、健康寿命延伸・医療費抑制に貢献
日立システムズ、神奈川県、メドミライ、東京大学は、2024年度のAMED*1公募事業「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業」の一環として、メドミライの「行動変容促進アプリケーション(MIRAMED®)」を活用した予防・健康づくり基盤(ヘルスケア社会実装基盤)の研究開発を実施しました。
本公募事業を通じて、神奈川県より提供を受けた匿名化された国保データベース(KDB*2)から抽出した約100万件のリアルワールドデータ(RWD*3)を活用し、「ダッシュボード」と「AIエージェント」機能を搭載した分析基盤をヘルスケア社会実装基盤*4の機能として新たに構築しました。
開発した分析基盤が有するこれらの機能を活用することで、従来、保健師等が手作業で多大な時間と労力をかけていた、特定保健指導の対象者の状況確認から、支援内容の提案、個別のリスクに応じた健康指導文面の自動生成までの業務を一貫して行うことができます。
具体的には、「ダッシュボード」機能により、健康指導対象者の健康状態の数値データをグラフや表などの形に自動で変換し、可視化することで、保健師の意思決定をサポートするとともに、「AIエージェント」機能により、対象者ごとの健康情報を理解し、適切な分析やレポートの作成をサポートします。
これにより、保健師等の業務負荷を軽減するとともに、データ利活用の推進で、地域ごとの健康課題に対応した、より個別化された健康増進施策の設計が可能となり、未病の改善や、人々の健康寿命延伸といった、次世代の保健医療に向けた新たな施策の検討につなげることができます。
*1
AMED:国立研究開発法人日本医療研究開発機構
*2
KDB(国保データベース):国民健康保険(国保)に関するデータを統合・分析するためのシステムのこと。国保連合会が保有する健診・医療・介護 の各種データを活用し、地域の健康課題を明確化や、保健事業の計画策定、評価を支援する役割を担っている。
*3
RWD(リアルワールドデータ):医療現場や日常生活で得られる実際のデータのこと。
臨床試験などの厳密な条件下で収集されたデータとは異なり、実際の診療や健康管理の中で蓄積される情報を指す。
*4
本サービスは、要配慮個人情報である医療情報を安心安全に運用できる3省2ガイドラインを遵守した形でアマゾン ウェブ サービス(AWS)を利用し、法規制に準拠したクラウド基盤上で提供しています。
背景
医療分野でのデジタル活用が進み、医療DXとRWD活用の潮流は自治体の現場にも拡大
一方、保健師の現場はデジタル活用も含めた業務効率化が急務に
日本は世界で最も高齢化率が高く*5、医療・介護費の増加が国の財政を圧迫しつつあります。こうした中、厚生労働省は健康寿命延伸プラン*6として、「健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進」や「自然に健康になれる環境づくり」などを推進しており、「医療DX推進ロードマップ」において、推進するためのアクションプランとして、生成AI等の医療分野への活用促進を明記*7しています。
また、医療ビッグデータの利活用を支えるデータヘルス改革も進行しており、RWDによる施策評価や個別支援の重要性が高まっています。さらに、2025年6月には、デジタル庁から「データ利活用制度のあり方に関する基本方針」が発表され、医療データは、「デジタル公共財」として、今後さらなる利活用が見込まれます。
一方、人々の健康を支える市町村保健師の現場では、それぞれの健康課題に適した健康増進施策の設計が難しい、業務が特定職員に属人化しているなどの課題があります。
*5
出典:内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)」
*6
出典:厚生労働省「予防・健康づくりについて」
*7
出典:厚生労働省「医療DXの更なる推進について」
特長
健診・医療データ約100万件をもとに生成AIを活用した分析基盤を開発
保健師の業務効率化とデータをもとにした対象者ひとりひとりにあった保健指導を実現
本ヘルスケア社会実装基盤は2024年度のAMED公募事業「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備)」の一環として、メドミライの「行動変容促進アプリケーション(MIRAMED®)」を活用した予防・健康づくり基盤の研究開発において構築した分析基盤です。神奈川県が提供するKDB 2,400万件から抽出した約100万件の研究データを活用し、産・学・公で連携して構築しました。
本分析基盤は、大きく「ダッシュボード」と「AIエージェント」の2つの機能を有しています。これらの機能を活用し、市町村単位での傾向分析や、特定保健指導における健康上のリスクの抽出、支援内容の文案を自動生成する、といった一連の保健業務を支援できる設計となっています。
「ダッシュボード」機能は、健康指導対象者の健康状態の数値データをグラフや表などの形に自動で変換し、可視化することで、保健師の意思決定をサポートします。読み込んだKDBの健診結果をもとに、属性・基準・検査値・生活習慣などのさまざまなフィルタでデータを絞りこみ、該当データをグラフやフローチャートなどでアウトプットすることが可能です。
これにより、保健師等が表計算ソフトなどを用いて、手作業で行っていた膨大な量のデータ集計に要する時間を、大幅に短縮することにも成功*8しました。この機能には、東京大学大学院工学系研究科個別化保健医療講座との共同研究が生かされています。
*8
従来16時間かかっていた検査結果からある検査項目組み合わせでの一定値以上の人の集計をわずか2分で完了。
「AIエージェント」機能は、生成AIがユーザーのリクエストを理解し、適切な分析やレポート生成をサポートします。保健師がひとりひとりの対象者の情報に応じて、都度考えていた対象者へのアドバイスの内容を、読み込んだデータをもとに生成AIが自動生成し、その後、対象者に送るメール文面の作成をサポートします。
このように、特定保健指導の計画立案から、健康指導対象者へのメール作成までの一連の保健指導業務を効率化します。
プレスリリースはこちら(株式会社日立システムズ 2025年9月2日掲載)
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『HealthTechWatch』の視点!
今回取り上げたのは、日立システムズ・神奈川県・メドミライ・東京大学が、生成AIを活用したヘルスケア分析基盤を構築したニュースです。
最近、ヘルスケア関連のニュースを見ているとAIの活用が目立ってきている印象です。
AIと言っても機械学習型のAIの活用よりも、生成AIをヘルスケアサービスに組み込む流れが特に強まっています。
しかし、生成AIの活用が、どんなメリット、提供企業にとってのリターンを産むのとかといった活用の本質的な狙いが、残念ながらイマイチ見えてこないケースもあったりします。
現時点でヘルスケアサービスへの生成AIの活用は、生成AIならではの強みを活かした個別化、パーソナライズな対応であったり、共感的なコミュニケーションへの活用が目立ってきています。
しかし、生成AIの活用における懸念事項としては、情報の確かさや信頼性があります。
生成AIを活用する際には、情報の確かさや信頼性についてはコントロールして提供するのは当然ですが、あまりその部分を制御し過ぎてしまうと、生成AIらしさが損なわれてしまうことにもなりかねません。
そのため、生成AIらしさを活かして提供する際には、情報の確かさや信頼性と生成AIらしさのバランスをどう取るのかという点があります。
しかし、今回のニュースのような特定保健指導の現場では、「人」の介入が前提の仕組みにおける生成AIの活用の場合には、アウトプットの最終チェックは人に任せることができます。
人のチェックによって、情報の確かさや信頼性の懸念事項はクリアできます。
また、これまでの特定保健指導では「人」の介入ならではの人への負荷が高くなるため、コストにも影響することが課題としてありました。
今回のニュースでは、人への負荷を軽減するための生成AIの活用ということで、提供企業にとってのリターンとして、コストダウンにつながることが明確になってきています。
AIの活用では、利用者との直接的な関係性の中で活用するケースもありますが、生成AIを活用する価値とリスクを考えた場合には、人をサポートして人の負荷を軽減し、人がチェックすることで情報の信頼性のリスクを回避することで、最終的に提供企業にとってのリターンである、サービスの提供価値の向上と人の負荷のコストダウンにつながるのです。
現時点で生成AIの活用は、人が関わるヘルスケアサービスこそメリットが大きいため、検討すべきではないかと考えております。
特定保健指導への生成AIの活用は、今後はさらに拡がっていくのではないかと、今回のニュースを見てあらためて感じました。
『HealthTechWatch』編集委員 里見 将史
ヘルスビズウォッチ合同会社の共同代表、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。
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