★★注目ニュース★★ 東京大学、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけ

里見将史

2025.04.21

“調査:食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけ”

――食事の質および肥満との関連――

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、篠崎奈々助教、佐々木敏東京大学名誉教授らによる研究グループは、20~69歳の日本人1055人を対象として、食にまつわるリテラシー(8項目)と食に対する動機づけ(15項目)を幅広く調べ、食事の質との関連を示す項目(調理技術、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費、自然への配慮重視、利便性軽視、快楽軽視)は、肥満との関連を示す項目(食に関する誘惑に抵抗する力が弱いこと、日々の食事計画を立てないこと、嗜好重視、健康軽視)と大きく異なることを明らかにしました。

本研究は、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べ、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究です。

本研究の成果は、世界的な公衆衛生課題である不健康な食事と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで重要な科学的根拠となることが期待されます。

 <研究の背景> 
 不健康な食生活と肥満は、世界的に主要な公衆衛生上の課題です。したがって、食習慣や肥満を形作る要因をより良く理解することが必要となってきています。このような流れの中で、食に対する動機づけ、すなわち、個々人が食品を摂取する際に考慮する理由や意味づけに注目1 / 6 が集まってきました。
 
 「食」とは、社会の中で営まれる社会的な行為であり、人々の食物摂取は、空腹といった生理学的な動機づけだけでなく、嗜好や利便性、社会的規範といったさまざまな動機づけによってなされるものであるからです。また、最近になって登場した概念として、食にまつわるリテラシーがあります。
 
これは、「食を計画、管理、選択、準備、摂取するために必要な、相互に関連した知識、スキル、行動の集まり」のことを指します。 食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけが、食事の質および肥満とどのように関連するかについての検討は、これまで部分的にしか行なわれてきませんでした。そこで本研究では、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べ、それらと食事の質および肥満との関連を包括的に検討することを目的としました。 
 
 <研究の内容> 
 本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータをもとにしています。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1055人です。妥当性が検証済みの質問票を用いて、食にまつわるリテラシー(調理技術、食に関する誘惑に抵抗する力、健康的な間食スタイル、社会的・意識的な食行動、栄養成分表示の活用、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄の8項目)と食に対する動機づけ(嗜好、習慣、生理的必要性、健康、利便性、快楽、食の伝統、自然への配慮、社会性、価格、見た目の良さ、体重管理、感情、社会的規範、社会的イメージの15項目)を評価しました。
 
 また、4日間にわたって食事日記をつけてもらい、そのデータをもとにして健康食インデックスを算出し、食事の質を評価しました。さらに、身体測定を行ないました。 
 
食にまつわるリテラシー8項目のなかで、食事の質が高いことと関連していたのは、調理技術(が高いこと)、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費の4項目でした。また、食に対する動機づけ15項目のうち、食事の質が高いことと関連していたのは、自然への配慮を重視すること、利便性を重視しないこと、快楽を重視しないことの3項目でした。

一方、食にまつわるリテラシー8項目のなかで、腹部肥満(腹囲が男性で90㎝以上、女性で80cm 以上と定義)と関連していたのは、食に関する誘惑に抵抗する力(が弱いこと)、日々の食事計画(を立てないこと)の2項目でした。

また、食に対する動機づけ15項目のうち、腹部肥満と関連していたのは、嗜好を重視すること、健康を重視しないこと、体重管理を重視することの3項目でした。ちなみに、肥満(体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値である肥満度が25以上と定義)との関連を調べた場合もほぼ同様の結果でした。 

<今後の展望> 
食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけを網羅的に調べた本研究では、食事の質の向上に重要な項目(調理技術、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費、自然への配慮重視、利便性軽視、快楽軽視)は、肥満の予防に重要な項目(食に関する誘惑に抵抗する力、日々の食事計画、嗜好軽視、健康重視)と大きく異なることが示唆されました。

本研究は、食にまつわるリテラシーおよび食に対する動機づけと、食事の質および肥満との関連を包括的に検討した世界で初めての研究です。本研究の成果は、世界的な公衆衛生課題である不健康な食事と肥満の蔓延に対する有効な戦略を立てるうえで重要な科学的根拠となることが期待されます。 
 
プレスリリースはこちら(東京大学 2025年3月掲載)
 
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。

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『HealthTechWatch』の視点!

今回取り上げたのは、食にまつわるリテラシーと食に対する動機づけと、食事の質および肥満との関連性についての東京大学の研究結果です。

今回の研究では、以下の食にまつわるリテラシーの8つの項目と食に対する動機づけの15項目のそれぞれが、食事の質、肥満および腹部肥満とどのように関連しているのか確認しています。

<食にまつわるリテラシー>
 ・調理技術
 ・食に関する誘惑に抵抗する力  
 ・健康的な間食スタイル
 ・社会的・意識的な食行動    
 ・栄養成分表示の活用 
 ・日々の食事計画   
 ・健全な食費
 ・健全な食品備蓄    
 
 <食に対する動機づけ>
 ・嗜好 
 ・習慣  
 ・生理的必要性    
 ・健康
 ・利便性 
 ・快楽
 ・食の伝統
 ・自然への配慮 
 ・社会性
 ・価格
 ・見た目の良さ
 ・体重管理
 ・感情
 ・社会的規範
 ・社会的イメージ 
 
 結果としては、リテラシー8項目のなかで、食事の質が高いことと関連していたのは、調理技術(が高いこと)、健康的な間食スタイル、栄養成分表示の活用、健全な食費の4項目。
 
 また、食に対する動機づけ15項目のうち、食事の質が高いことと関連していたのは、自然への配慮を重視すること、利便性を重視しないこと、快楽を重視しないことの3項目という結果でした。

腹部肥満との関連については、食にまつわるリテラシー8項目のなかでは、食に関する誘惑に抵抗する力(が弱いこと)、日々の食事計画(を立てないこと)の2項目。

また、食に対する動機づけ15項目のうちで腹部肥満と関連していたのは、嗜好を重視すること、健康を重視しないこと、体重管理を重視することの3項目。

この結果から、食事の質の向上に重要な項目は、以下7つです。

・調理技術
・健康的な間食スタイル
・栄養成分表示の活用
・健全な食費
・自然への配慮重視
・利便性軽視
・快楽軽視

また、肥満の予防に重要な項目としては、以下4つという結果になっています。

・食に関する誘惑に抵抗する力
・日々の食事計画
・嗜好軽視
・健康重視

これまでの私の認識からすると、食事の質の向上は肥満の予防に通じると考えていましたが、食事の質を高めることとがそのまま肥満の予防につながるということにはならないことが今回のこの結果から理解できました。

やはり、肥満の予防には正しいリテラシーだけではない、個人としての食事との向き合い方が重要であり、難しい領域が絡んでいるからこそ肥満、ダイエットが簡単ではないということを今回の研究結果で再認識させられました。

『HealthTechWatch』編集委員 里見 将史
株式会社スポルツのディレクターとして、主に健康系ウェブサイト、コンテンツなどの企画・制作・運営を担当。(一財)生涯学習開発財団認定コーチ。

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