★★注目ニュース★★ なぜ「待ち時間」が医療の盲点なのか?

『HealthTechWatch』では、ここ最近で公開されたニュースから「注目ニュース」をピックアップし、独自の視点で解説していきます。
今回注目したニュースはこちら!
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“なぜ「待ち時間」が医療の盲点なのか?”
「どうぞお座りください。すぐにお呼びします」と言われたら、誰もがその本当の意味を理解している。硬い椅子に座り、古くなった雑誌、見ていないテレビ、そして周りの人々の会話のざわめきに囲まれる。患者にとって、これは単なる待ち時間ではなく、不安や不快感、さらには恐怖を感じる瞬間となる。
しかし、医療現場では、待ち時間を治療の過程における重要な部分として捉えず、受動的な時間として扱い続けている。
エクスペリエンスデザイナーとして、私(筆者:Mary Doeling)は体験とはケアが始まった瞬間だけではないということを学んだ。それは、大小さまざまなインタラクションの総和であり、それが空間における人々の感情を形作る。
では、なぜ私たちは待合室を、人々に忘れ去られたと感じさせるようなデザインにしてしまうのだろうか?
待ち時間がなぜ重要なのか
殺風景な待合室は、患者にカルテ上の単なる名前の一つに過ぎないという印象を与える。思慮深く落ち着いた空間は、別のメッセージとして伝わるだろう。「あなたは大切にされている」というメッセージに。
2023年の病院 外来研究では、実際の待ち時間ではなく、認識が満足度を左右することが判明した。人々が待ち時間を公平または予想通りだと感じると、満足度は向上する。
つまり、デザイン、コミュニケーション、そして感覚的な刺激によって、たとえ時計が動かなくても、待ち時間の認識を変化させることができる。
空港ラウンジの優れた点
医療は空港ラウンジからヒントを得るべきだ。空港ラウンジは、避けられない待ち時間の間、人々をサポートするために設計された空間となっている。
ラウンジは、待ち時間が画一的なものではないことを認識している。休息のための静かなコーナー、生産性を高めるワークスペース、ファミリーゾーン、軽食など、選択肢と自立性を提供してくれる。
フライトの遅延は誰にとっても喜ばしいものではないが、よくデザインされた空港ラウンジは、その衝撃を和らげ、フラストレーションを楽しいものに変える力を持っている。
医療におけるリスクは、旅行よりもさらに大きい。患者は病気や体調不良、過重労働、不安を抱えて来院することがある。ラウンジと同様に、医療施設は、患者の感情面、精神面、身体面の状態に寄り添うべきだ。
これらの教訓を医療に応用する
ラウンジがストレスの多い旅行の一日を少しでも和らげることができるなら、医療現場でも不安を掻き立てる診察中に同じことができるのではないでだろうか!?
まずは、待っている人にはそれぞれ違うものが必要だという考え方を取り入れてみて欲しい。
検査結果を待つ大人は、気を散らすものではなく、プライバシーを求めるかもしれない。病気の子供を持つ親は、静かな場所が必要かもしれない。仕事を休んで母親に付き添う娘は、リラックスして気持ちを落ち着かせる場所を必要としているかもしれない。
こうした感情面と実務面の違いを考慮したゾーンを設計することは、単なるおもてなしではなく、ケアの一部と言える。
満足度は認識によって決まる。周囲の環境、コントロール、信頼といったものについて人々がどう感じているかが、ケアの体験を形作る。
待合室で無視されたり、見てもらえていないと感じたりすると、診察が始まる前から感情的な摩擦が生じてしまう。
しかし、小さな、しかし意図的な一歩を踏み出すことで、変化を起こし始めることができる。
より良い照明、より快適で柔軟性の高い座席、プライバシー、静寂、集中力などを考慮したゾーン。待ち時間トラッカー、モバイルチェックイン、テキストメッセージによる更新といったデジタルツールは、患者の自立心と明晰さを高めることができる。
心地よい映像、健康関連コンテンツ、環境音、心地よい香りといったさりげない工夫でさえ、人々がその環境で感じる感覚を変えることができるのだ。
これらは単なる機能やアメニティではない。信頼を構築するためのツールとなる。
記事原文はこちら(『MedCity News』2025年7月18日掲載)
※記事公開から日数が経過した原文へのリンクは、正常に遷移しない場合があります。ご了承ください。
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『HealthTechWatch』の視点!
自身の症状で気になることがあったとき、病院に行くかどうかを悩むことがあるでしょう。
この程度で病院に行くべきか?と考えたとき、行かない理由の一つが、病院での待ち時間ではないでしょうか!?
病院に行って待たされると思ったときに、混み合った待合室で、隣で咳をする人もいれば、大声を出す子供がいたりする中で、じっと耐えないといけない。などが思い出されます。
そんなことを思い出すと、もっと症状が悪くなったら行けば良いかな。と判断してしまうことがあります。
実はこんな思いをしなくて良い医療サービスもあります。
予約の時間に訪れると待ち時間なく応接室に通されて、ソファーに座るとコーヒーが出てきて、一息ついたタイミングで医者がやってくるといったものです。
もちろん、このようなサービスは保険適用外で行われるので、高額なものとなります。ただ、このようなサービスがあることを知らないと消費者として選ぶこともできません。
待ち時間がどうしても嫌で、5万円払って解決するならその方がお得と考える人もいるでしょう。
今回の記事で空港ラウンジを例にしていますが、航空会社は利用者にエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスの中から選べるようにしています。
ファーストクラスの価値が欲しいなら、エコノミークラスの20倍、30倍の金額を払うことになりますが、それだけの価値があると感じる人が選んでいます。
米国と違い、日本の医療の中で、このような選択が提示できないのは、皆保険制度のためと言えます。
それは保険制度を利用するための規制だけでなく、病院とはこうあるべきと、提供者も利用者も思い込んでいるためではないでしょうか。
例えば、保険に加入しているのだから、低額で医療は受けられるものと思っているなどです。
しかし、提供者は保険制度を守りながら、高額化する医療設備を導入、維持し、患者へも時代に合わせたサービスを提供するよう努めています。このことで収入が増えるかと言えば、そんなことはなく、現在では7割の医療施設が赤字と言われています。
今までの当たり前の先は、提供者にとっても利用者にとっても、けっして明るい未来とは言えません。
簡単に変えることはできないでしょうが、まずは本当に得たい未来を考えて、そこにたどり着くために自由な発想を持ってはいかがでしょうか?
昨年11月に発行されたISO 25554「ウェルビーイング・ガイドライン」そのヒントが記されています。
この「ウェルビーイング・ガイドライン」を参考に、自身が本当に目指したい未来を考えてみてください。きっとワクワクするものになるはずです。
『HealthTechWatch』編集長 渡辺 武友
ヘルスケアビジネス合同会社にて共同代表CSO。健康ビジネスにおけるマーケティングに関するコンサルティングを行う。一般社団法人 社会的健康戦略研究所の理事として、ウェルビーイングの社会実装方法の研究を行う。またウェアラブル機器、健康ビジネスモデルに関する健康メディアでの発表や、ヘルスケアITなどで講演を行う。
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